「親父がフサフサだから俺は大丈夫」
現場の休憩中、薄毛の話になると必ず誰かが言うセリフです。
私も20年くらい、なんとなくこの理屈を信じてきました。うちの父親は70代でも髪が残っている方なので、「まあ俺もセーフだろう」と。
ところが40代になって自分の頭頂部が気になり始め、AGAについて調べていたら「ハゲは母方から遺伝する」「見るべきは父親じゃなくて母方の祖父」という話が次々出てきました。
慌てて母方の祖父の顔を思い出したのですが、記憶の中のじいちゃんは、つるっとしていました。
これは他人事じゃない。ということで、ハゲと遺伝の関係を正直に調べました。
調べてみると、ネットに出回っている話は「半分ホントで、半分あやしい」。この記事では、根拠が確認できた話とできなかった話を、正直に分けて書きます。
先に結論。ハゲ(AGA)は遺伝の影響が大きい。ただし「遺伝=確定」ではない
まず、遺伝が関係あるのかないのかで言えば、関係は大アリです。
双子を対象にした研究(一卵性と二卵性の双子を比べることで、遺伝の影響度を推定できる研究手法です)では、25〜36歳の男性でAGAの遺伝率は約81%、デンマークで行われた70歳以上739名を対象にした研究でも約79%という結果が出ています。若くても年を取っても8割前後。薄毛は遺伝の影響がかなり強い体質だと考えてよさそうです。
ただしここで、多くの人が誤読するポイントがあります。
「遺伝率81%」は「81%の確率でハゲる」という意味ではありません。
遺伝率というのは、「人によって薄毛になったりならなかったりする、そのバラつきの約8割が遺伝で説明できる」という統計上の数字です。個人の発症確率とは別物です。家系に薄毛の人がいても発症しない人はいますし、逆もあります。
つまり結論はこうです。
- ハゲやすい「体質」は、かなりの部分が遺伝で決まる
- でも、体質を受け継いだ=必ず発症、ではない
- そして発症しても、進行を抑える手段は存在する
「遺伝だから終わり」でも「遺伝なんて関係ない」でもない。この中間が正直なところです。
なぜ遺伝するのか。ハゲの仕組みをざっくり整理
AGAの犯人はDHT
AGA(男性型脱毛症)の直接の原因は、DHT(ジヒドロテストステロン)という強力な男性ホルモンです。
男性ホルモンのテストステロンが、5αリダクターゼという酵素と結びつくとDHTに変換されます。このDHTが毛根の受容体にくっつくと、髪の成長期が短くなり、髪が太く育つ前に抜けるようになります。
これがAGAの基本メカニズムです。詳しい仕組みは基礎記事にまとめてあります。

遺伝するのは「作りやすさ」と「反応しやすさ」の2つ
では何が遺伝するのか。現在よく知られているのは、次の2つの体質です。
- DHTを作りやすい体質…5αリダクターゼの活性の高さ。酵素の働きが強い人ほどDHTが作られやすい
- DHTに反応しやすい体質…アンドロゲン受容体(AR)の感受性。受容体がDHTとくっつきやすい人ほど毛根が影響を受けやすい
工事に例えるなら、①は「現場に劣化要因がどれだけ搬入されるか」、②は「構造体がその劣化要因にどれだけ弱いか」。どちらか一方でも高ければリスクは上がり、両方高ければかなり分が悪い、というイメージです。
そして重要なのが、この2つは遺伝経路が違うという点です。ここが「母方?父方?」問題の答えに直結します。
母方?父方?「どっちから遺伝するのか」問題に正直に答える
「母方の祖父を見ろ」と言われる理由
アンドロゲン受容体(AR)の遺伝子は、X染色体の上にあります。
男性の性染色体はXY。Y染色体は父親から、X染色体は母親からもらいます。つまり男性のAR遺伝子は、100%母親経由です。そして母親のX染色体をさかのぼると、母方の祖父・祖母に行き着きます。
「ハゲは母方から」「母方の祖父を見ろ」と言われるのは、この仕組みが根拠です。デタラメではなく、ちゃんと理屈のある話でした。
でも父方も無関係じゃない
ただし、話はそれで終わりません。
もう一方の体質である5αリダクターゼの活性に関わる遺伝子は、常染色体にあるとされています。常染色体は父親と母親の両方から受け継ぎます。また、近年の研究ではX染色体以外にも薄毛に関連する遺伝子領域(20番染色体の20p11など)が複数見つかっており、薄毛は1つの遺伝子で決まる単純な話ではないことが分かってきています。
つまり、「母方だけ見ればいい」は不正確です。
- AR感受性 → 母方経由(X染色体)
- 5αリダクターゼ活性など → 両親経由(常染色体)
母方の影響が語られやすいのは事実ですが、父親がフサフサでも母方に薄毛がいればリスクはあるし、その逆もある。「親父フサフサ理論」は、残念ながら安全宣言にはなりませんでした。
私の家系の場合
で、冒頭の話に戻ります。私の場合、父親は70代で髪が残っている。しかし母方の祖父は、私の記憶にある限りきれいに薄かった。
この理屈でいくと、私はAR感受性のリスクを母方から受け継いでいる可能性がある、ということになります。40代になって頭頂部が気になり始めた現状と、妙に符合してしまって、正直ちょっと嫌な気持ちになりました。ただ、後述しますが「リスクがある=詰み」ではないので、そこは切り分けて考えるようにしています。
「母方の祖父がハゲなら75%」という数字、出典が見つからなかった
ここが今回一番書きたかったところです。
遺伝について調べていると、多くのサイトでこんな数字を見かけます。
- 「母方の祖父が薄毛の場合、遺伝する確率は約75%」
- 「母方の祖父と曽祖父がともに薄毛なら約90%」
クリニックの記事にも繰り返し登場する数字なので、私も最初は「そういう研究があるんだな」と思いました。ところが、この数字の元になった研究を探しても、辿り着けませんでした。
どのサイトも数字だけを載せていて、一次的な出典が示されていないのです。複数のサイトが同じ数字を使い回している状態で、正直、根拠のはっきりしない数字がコピーされて広がっている可能性を疑っています。
一方で、出典まで確認できたのは前述の双生児研究(遺伝率79〜81%)です。「遺伝の影響が大きい」こと自体は確かですが、「あなたの発症確率は75%です」と言えるような研究は、少なくとも私には見つけられませんでした。
もし今後、根拠となる研究が確認できたらこの記事に追記します。それまでは、この手の「◯◯%」は話半分に読んでおくのが正直な態度だと思います。
遺伝が強くても「防げる・遅らせられる」のか
家系的にリスクがありそうだと分かったとして、打つ手はあるのか。調べた範囲で、期待できることとできないことを分けます。
生活習慣で「悪化要因」は減らせる
睡眠不足、偏った食事、喫煙、過度な飲酒などは、髪が育つ環境を悪くする方向に働くとされています。頭皮環境や血流を整えることは、遺伝リスクがある人ほどやっておいて損はありません。睡眠と薄毛の関係は別記事で詳しく調べています。

ただし、生活習慣だけでAGAは止まらない
正直に書きます。遺伝由来のAGAは、DHTという体内のホルモンの働きで進行します。規則正しい生活をしてもDHTは作られ続けるので、生活改善だけで進行を止めるのは難しい、というのが調べた限りの現実です。「湯シャンでハゲが治る」的な話に飛びつきたくなる気持ちは分かりますが(私も一瞬調べました)、仕組みを考えると期待しすぎは禁物です。
医学的な治療は、遺伝リスクがあっても効く
一方で、AGA治療薬はDHTの生成や働きそのものに作用します。つまり遺伝的にDHTを作りやすい人・反応しやすい人でも、進行を抑える効果が期待できるということです。「遺伝だから何をしても無駄」ではない、というのが救いでした。薬の種類と副作用については、こちらにまとめています。

家系が気になるなら、まず現状把握から
ちなみに、自分の遺伝的リスクを調べる「AGA遺伝子検査」というものも存在します。ただ、検査で分かるのはあくまで「リスク傾向」で、発症の有無や時期までは分かりません。数千円〜2万円程度かかることを考えると、正直、費用対効果は微妙だと感じました。
それよりも先にやるべきは、今の自分の頭の現状把握だと思います。遺伝リスクがどうであれ、実際に進行しているかどうかは鏡と写真で確認できます。私が実際にやったセルフチェックの方法はこちらにまとめました。

そして、セルフチェックで「これは進んでいるかもしれない」と思ったら、オンラインで医師に相談するという手もあります。私がクリニックを比較検討した経緯はこちらです。

まとめ:じいちゃんを恨む時間があったら、現状把握
- ハゲ(AGA)は遺伝の影響が大きい。双生児研究で遺伝率は約80%
- ただし遺伝率80%=発症確率80%ではない
- 「母方から」は理屈のある話。ただし父方経由の遺伝もあり、「どっちか一方」ではない
- 「母方の祖父がハゲなら75%」という定番の数字は、出典が確認できなかった
- 遺伝リスクがあっても、医学的な治療で進行は抑えられる
母方の祖父がつるっとしていた私としては、正直穏やかではない調査結果でした。でも、遺伝は変えられなくても、この先どうするかは選べます。

じいちゃんを恨んでも1本も生えてこないので、私はまず現状把握と、7月の健康診断の結果待ちからです。


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